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思わず涙が出てしまった恋愛体験 より

163 :ボヘミアン :01/12/04 12:15 ID:Y/butMt8
少し長編になるかもしれませんが
最近気持ちの整理もできたので書いてみます。

今から6年前の話です。
僕がまだ10代で、あまり携帯電話は普及してなくて
ポケベル全盛期の時代のことです。

僕はその頃高校を出て働いていたんですけど
2つ年上の女性と付き合っていました。
お互いの親にも会ったりして
僕は結婚する事を信じて疑いませんでした。

毎朝ポケベルに「オハヨウ」とか
「ガンバッテネ」みたいなメッセージのやりとりをしていたのですが、
ある日僕がメッセージを送るのがめんどくさくて送らない日があって、
彼女からもメッセージは送られてきませんでした。
ちょうどその日は給料日で
僕は今日は彼女にメシでもおごろうと
どこに行こうか考えていました。
仕事が1段落つき、昼休みに入り
食事に行こうとした時に僕宛の電話がなりました。
その電話は彼女の交通事故を告げる電話でした。


164 :ボヘミアン :01/12/04 12:22 ID:Y/butMt8
僕はその電話を置いた後、
しばらく何のことかわからなかったんですが、
「今意識不明だ」という言葉に体中汗ばんだのを覚えています。
すぐに無理やり会社を早退し
彼女が運ばれた病院へ向かいました。
電車の中で「実はたいした事ないんちゃうかな?」
とか自分に都合のいい方にしか考えたくなかったんですが、
「もしかしたら・・」って考えると周りに人がいるのに
ボロボロと涙が出てきて、すごくさみしい気持ちが溢れてきました。

僕が病院に着く頃には、意識が戻っている事を祈りながら
病院まで走っていきました。
彼女の家族に出会い、容態を聞いてみると
彼女は集中治療室に入っている、という事を聞いて
事態の深刻さを悟りました。
外傷はほとんどなく、脳にショックを受けたらしく
まだ意識は戻っていませんでした。

僕はとりあえず会社に彼女の意識が戻るまで休む事を
電話で伝えて病室の前で、意識が戻るのを待つ事にしました。

その日は病院のソファーで、ほとんど眠れずに夜を明かしました。
目の前のストーブで背中は寒かったのに
顔だけがすごく火照っていました。


165 :ボヘミアン :01/12/04 12:28 ID:Y/butMt8
結局その日は意識が戻る事なく
次の日の朝1番で着替えなどを家にとりに帰りました。
病院に帰ってみると明日手術ができるかどうかが
わかるだろうという、医者からの話があったそうです。
そして5分だけ面会時間がもらえるとの事で、
僕は会いたいような会いたくないような、
複雑な気持ちでしたが、給食当番の時の様な服を着て
彼女に会いに部屋にはいりました。
部屋の中は訳のわからない機械がいっぱいで
その中のベッドの一つに彼女が寝ていました。
まるで眠っているだけの様な顔で
名前を呼べば今すぐにでも起き上がってきそうでした。
手を握ると腕のあたりに、点滴などの管が何本も刺されていて
容態の悪さを物語っているようでした。
それと唇が妙にカラカラになっているのが気になりました。
5分間をいうのは短いもので、
何か話しかけようとしたのですが、
なんとなく周りの目が恥ずかしくて
言葉らしい言葉をかけれませんでした。


166 :ボヘミアン :01/12/04 12:41 ID:Y/butMt8
顔を見ると眠っているだけに見えるので、
その日は少し気分も落ち着いて
なぜか「絶対大丈夫!」という根拠のない自信でいっぱいでした。
それからは彼女の意識が戻ってからの事ばかり
考えるようになり、頭の手術するんやったら
髪の毛剃らなあかんから、帽子がいるし買いに行こう!
と看病の事を考えて買い物に行く事にしました。
この時僕は目を覚ました彼女を喜ばせる事だけを考えていました。
さっそく帽子を探しに行き、
キャップは似合わんし、ニット帽だとチクチクするから
という事で、綿で出来た帽子を探して買いました。
買い物が済んで、帰ろうとした時に
街中を歩く女の子を見てると、
なんか自分が現実から少しズレた場所にいるような気がして
妙な不安を感じました。
その不安からか、彼女の意識が戻ったら正式にプロポーズしようと
安物ですが指輪まで買って帰りました。

その日も結局容態に変化はなく過ぎていきました。


167 :ボヘミアン :01/12/04 12:50 ID:Y/butMt8
次の日のお昼前、彼女の父親だけが医者に呼ばれて
病状の説明を受けるとの事だったのですが、
無理を言って僕も同席させてもらいました。
どうしても自分の耳で医者から聞きたかったんです。
多分あれほど緊張した事は今までになかったと思います。
医者の部屋に入って、医者の顔色を見てみると
どっちともとれない無表情な顔をしていました。
医者が口を開いて、簡単な挨拶が終った後喋り出したのですが、
病状はよくなるどころか病院に運ばれた時点で
すでに手遅れでした。
僕はこれを聞いて頭がグラグラして
椅子から落ちないようにする事しか考えれませんでした。
どうやら今治療をしている様に見えるのは、
家族に心の準備をさせる為に
無理やり心臓を動かして、体だけ生かして少しずつ
悪い方向へ持っていくというものでした。

僕は部屋を出て彼女の父親に、家族にはまだ言わないで欲しいと言われ
泣き出しそうなのをこらえて、母親に話かけられても
「用事が出来た」とだけ言い残して、誰もいない場所まで走りました。
街中であれだけ涙を流して大声で泣いたのは初めてでした。


168 :ボヘミアン :01/12/04 13:01 ID:Y/butMt8
それからちょうど涙が枯れた頃、病院へ戻りできるだけ普通に振舞いました。
その夜、彼女の父親と銭湯へ出かけました。
二人ともほとんど無言で風呂に入り、
話す事といっても関係ないどうしようもない会話ばかりでした。
僕は彼女の父親にはどうしても聞いておきたい事がありました。
僕が彼女と結婚するって言ったら許してくれるかどうかでした。
今考えると絶対に聞くべきではない時に聞いたような気がします。
病院に戻る前に父親を呼び止めて
ストレートには聞けなかったのですが、
買ってきた指輪を彼女の指につけてもいいか?と聞きました。
彼は黙ってうなずくだけでした。
その夜は眠る事ができなくて、家族と顔をあわせると泣いてしまいそうで
外で一人で過ごしました。

次の日また5分だけ面会できるということだったので、
もう1度彼女の顔を見に行きました。
彼女の顔は相変わらず眠っているようで
もう目を覚まさない事がウソのようでした。
僕は彼女の左手にこっそりと指輪とつけました。
もう何の意味もないのはわかっていましたが、
少しでも彼女に近づきたいという気持ちでいっぱいでした。
みんなが部屋を出た後僕は忘れ物をしたそぶりをして
ベッドの側に戻り、彼女のカラカラの唇にキスをしました。


170 :ボヘミアン :01/12/04 13:15 ID:Y/butMt8
それからしばらく経ち、彼女は一般病棟の個室に移ることになりました。
医者が言うにはもう長くないので
少しでも家族が長く一緒に入れるようにとの配慮だそうです。
僕は1日のほとんどをその部屋ですごすようになりました。
何もする事もなかったのですが、
話かけると声が届いてるような気がして
耳元で歌を歌ったり、話し掛けたりしていました。
そして夜が明けて昼すぎになると、医者と看護婦が入ってきて
みんなを呼んでくださいみたいになって、
みんなが見守る中、心拍数を表示しているピッピッってなる
機械に異変が見られるようになりました。
最後まで僕に片方の手を握らせてくれた
彼女の家族に感謝しています。
それから1時間ほど経った後、
そのまま静かに心臓が停止しました。
僕も含め部屋にいる人みんなの泣き声だけが聞こえてきて、
覚悟はしていたものの、本当にこうなった事が信じられなかったのですが、
医者の何時何分とかっていう声に現実に引き戻されました。

そして部屋にいる全員が驚く事が起こりました。
僕が握っていた彼女の手がものすごい力で
僕の手を握り返してきたのです。
僕は本当に驚いて多分変な声を出していたと思います。
しばらくして彼女の手からスーっと力が抜けていきました。
僕は涙はふっとんで、全員にその事を伝えました。
すると彼女の母親が
「きっと一生懸命看病してくれたからありがとうって言ってるんやで」
って言ってくれました。
冷静に考えると死後硬直だったのでしょうけども、
その彼女の母親の一言で僕は今まで道を間違わずにこれたと思います。

年上だった彼女は今では僕の方が年上です。


686 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 15:39 ID:J5ozzTua

もう10年も前の話になる。そのころぼくは私立高校の非常勤講師をしながら、あるメーカーの
技術顧問をしていた。技術顧問といってもそんな大層なものではなくて、数式を適当に立てては
コンピュータ上でシミュレートし、うまくいったらおなぐさみ的な半分遊びみたいな仕事だった。
とはいえ、時給5000円ももらっている以上、たまには真面目に仕事をすることもある。ある曲面
を構成するのにどうしてもギャップが出てしまってその解決法を探すのに色々と苦労していたとき
のことだ。行き詰って、紀伊国屋の数学関係の棚を見ていたとき、役に立ちそうな題名の本を見
かけた。手に取ろうとしたら、隣に立っていた女の子もちょうど手にしようとしていたところだった。
「あっ」と、ほとんど同時にぼくと彼女は声をあげた。月並みな言い方だけど、本当にどこにでも
いるようなこれといった特徴のない普通の女の子だった。
「どうぞ。ちょっと見たかっただけだし」とぼくがそう言うと彼女は
「ありがとうございます」と言ってレジに向かった。
あんな本を買う女の子って、何者だろうとぼくはいぶかしげに彼女を見送った。
これが彼女との出会いだった。



687 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 15:50 ID:J5ozzTua

それからしばらくたっても問題は解決しないままで、本業の仕事の合間にも、式を立てては
計算、もう一度立て直しては計算という日々が続いていた。紀伊国屋には何度かそれからも
立ち寄ったが、あの時見ようと思った本はそれから入荷されてなくて、ちょっと残念なことを
したな、と正直思っていた。その日も紀伊国屋によって本を探していたときのことだ。
「あの」
声がしたほうを見るとそこにあのときの彼女が立っていた。これは今だからそういえるのだが、
そのときぼくはその女の子が誰だかわからなかった。
「はい?」ずいぶん不審そうな顔で見てた、とあとで彼女にそう言われたくらいだから、そうとう
変な表情をしていたのだろう。
「あの、先日、ここで・・・」と言って彼女は一冊の本をバッグから取り出した。ぼくはその本の
題名を見てようやく思い出した。
「ああ、あのときの・・・」



688 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 16:01 ID:J5ozzTua

どうやら似たような仕事をしていることがわかったところで、お茶でも飲みながら話をしましょ、
ということになったのは別にそんな色々と考えがあってのことではなかったと思う。
こういう話ができる相手というのはそんなに多くなかったし、そのメーカーの中でも言い方は
悪いが特殊な分野で、周りの人たちにも遊んでいるように思われていたのは事実だった。
彼女が取り組んでいたのはぼくがやっていたのとは構成方法などがちょっと異なってはいたが
基本的な部分は同じようなものだったし、ぼくがアドバイスできるところはそうしたし、彼女がして
くれた話もずいぶん参考になった。この年になったから言えることだが、考えてみるとずいぶん
危ない話である。もしかしたら二人とも会社の守秘義務違反をしていたかもしれないのだ。しかも
相手はほぼ同業者である。



691 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 16:21 ID:J5ozzTua

それからぼくは、自分の仕事と彼女の仕事の一部を同時にやっていくことになった。よく
体力が持ったものだ。日中は本業の講師の仕事。週に2回は午後からそのメーカーで
仕事。家に帰ってからは彼女のと自分のを平行して式を立て、計算し、また式を立てて
計算する。睡眠時間は本当に少なかったと思う。
結局のところ、ぼくと彼女が抱えていた問題というのは、当時のコンピュータで解決する
のは難しい問題だったのだ。詳しくは言わないが、時間と費用の問題である。

恋愛感情とでも言うべきものはその頃お互いになかったと思う。問題を解決するのが
難しいということがわかったころから、何となくそういうものを意識するようになったと言う
のが本当のところだ。
彼女の実家は東京のはずれにあって、ここが同じ東京かと思わせるようなところだった。
ぼくは車の免許を取らないままだったので、よく彼女の運転する車でドライブをしたものだ。
紅葉のきれいなある日曜日に彼女は、ついと、幹線道路から離れ細い道に車を入れた。
「どこへいくの」とぼくが聞くと
「うち」と彼女は言った。
「うち?」
「そう。わたしんち」



692 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 16:27 ID:J5ozzTua

ありゃ・・・と思ったが、まあそういうこともあるかな、とも思った。彼女の両親はこれまたごく普通
の良き父親と母親という感じで、本当に普通の家庭だった。彼女は一人っ子だったのだが、両親は
特に父親は彼女のことを実にかわいがっていた。

誰にでも経験があることだとは思うが、「ああ、このままいったらぼくは彼女と結婚することになるんだ
ろうな」という考えがほんの少しだけこのときに思い浮かんだ。
まったく順調にぼくと彼女はつきあっていたと思う。ほんの短い間だったけれど。



693 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 16:37 ID:J5ozzTua

「最近、なんだか調子が悪い」と彼女が最初に言ったのは、ゴールデンウィークがあけた
頃だった。ぼくはいい加減、東京都の学校の採用試験に合格しなくては、という気持ちが
あって、メーカーの仕事も止め、夏の採用試験に向けて勉強を本格的にはじめていた。
「どうしたの」
「だるくて・・・」
春に会社の検診があったときは特に異常がなかったというのだが、ぼくはいまだにそう
思っていない。いい加減な検査だったのだろうと思っている。もっとも、一ヶ月くらい早く
わかったところでどうしようもないのだが。
「そっかー。そういえばなんかやせてない?」
「そんなでもないんだけど・・・先月検診したときはなんでもないっていわれたし」



695 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 16:44 ID:J5ozzTua

それから中間考査やら何やらでしばらく彼女と会えなかった。彼女のおかあさん
から電話があったのは、体育祭前だから5月の末だと思う。
「じつは、入院しました」
電話では彼女と話もしていたし、体調はよくないとは言っていたがそれほどとは思わなかった。
「どうしたんですか?」
「それがまだ・・・検査中なんです」
「そんなに悪かったんですか・・・」
「微熱が続いて、かぜとは違うようなので病院にいったら入院しなさいって言われたもので」
「そうですか・・・」
「たいしたことはないからこんなこと言わないでって言ってたんですが」
「いえ・・・病院はどこですか?」



696 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 16:56 ID:J5ozzTua

彼女は少し見ない間にずいぶんやせたように思えた。あとで聞いた話だが、もうこのとき
にはすでに発病していたし、放っておいたらいつ死んでもおかしくない状態だったそうで
ある。
白血病だったのだ。病名を聞いたとき、妙な非現実感におそわれた。まるで、テレビドラマか
映画のような・・・しかもありきたりな・・・。
そのご、さまざまな療法が取られた。完治は困難なこと、いかにして症状を抑え、日常生活
を送っていくかが課題であること等々、彼女の両親から涙ながらに話をされたときは、本当に
夢を見ているような気持ちだった。
時間があるとぼくは彼女のところへ行った。
「もうすぐ採用試験でしょ?勉強したほうがいいよ」と行くたびに彼女は言った。彼女の母親にも
そう言われていた。
「○○さん、お忙しい中来ていただけるのはありがたいですが、◎◎もかえって気にしてるみたい
で・・・」



697 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 17:08 ID:J5ozzTua

期末考査のあとに病院へ行ったとき、彼女にこう行った。
「一次試験が終わるまで来ないよ。成績処理もあるし」
化学療法のせいか、症状は抑えられ彼女は一時に比べたらずいぶん元気そうに見えた。
「うん」
「ちょっとは良くなったみたいじゃん」
「そうかも」
別れ際にぼくは彼女の手を握った。個室ならともかく、それ以上のことはできなかった。
彼女の手は軽く、心持ち小さくなったように思えた。

一次試験が終わり、夏休みになった。補習があったり、臨海学校や林間学校へ行ったりと
そんなに彼女と落ち着いて過ごすこともできなかった。病院だから落ち着いて過ごすなんて
どだい無理な話なのだが、彼女とはそこでしか会えないのだ。
元気になったら、どこへ行こうかとか、それをいうなら車の早く免許を取りなさいよとか、
林間学校で生徒が夜中に抜け出した話や寝ぼけて柱にあたまをぶつけて大出血した話
とかたわいのない話をずいぶんした。



698 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 17:18 ID:J5ozzTua

夏休み前半の補習が終わった日だった。次の日は、一次試験の発表だった。
帰り際に電話があった。
「あの、さっき出血して・・・」
白血病になると、血管がもろくなるのだそうである。彼女もそうだった。脳内で出血したのだ。

彼女が遠い世界に行ってしまうまでそんなに時間はかからなかった。ぼくが病院についたときは
意識もなく、あとは死を待つだけだった。

婚約したわけでもないし、ましてや家族でもないぼくがそのあとのことに色々手出しをするのは
なんとなくはばかられた。目立たないところで雑用を引き受けていたように思う。実をいうと、
よく覚えていない。



699 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 17:29 ID:J5ozzTua

月末に二次試験があり、終わったところで彼女の家に行った。都心は暑かったが
ここでは夕方になるとすっかり秋の気配だった。
今までも彼女の話を両親から聞くことはあったが、その日はこれまで以上に話を
聞いた。夜更けまで話は続き、ぼくは結局そのまま泊まることになった。

「もう、ずいぶん働いたしいいかなと思ってね」と次の朝、彼女の父が言った。仕事
を辞めることにしたというのだ。
「庭いじりでもしようかなと思ってね」
さわやかな、夏の終わりを感じさせる朝だった。
「夏の夜にきれいな花を咲かせるのがあるだろう?月下美人・・・あれを咲かせたいな」



700 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 17:39 ID:J5ozzTua

それから2年後のある夏の日、電話がかかってきた。ぼくは採用試験に合格し、都内の
ある中学校に勤務していた。
「今晩あたり、咲きそうなんだよ」
彼女の父だった。

夜半を過ぎた頃、ちょうどきれいに咲いた月下美人を見ることができた。仕事をしていたら、
こんなことはできなかっただろう、彼女の父は言った。もっとも、あんなことがなかったら、
こんなことはしていないと思うがね、とも言った。彼女の命日まであと数日だった。

3,4年はそんなことが続いた。ひと夏に何回か行くこともあった。
ある夏の日、いつもならかかってくるはずの電話が今年はかかってこないことに気がついた。



703 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 17:47 ID:J5ozzTua

電話をしてみた。誰も出ない。その後も何度かかけたが、つながらない。
部活のない日に休暇をとって彼女の家に行ってみた。なんとなく、荒れた感じがした。
誰も出ない。隣の人に聞いてみる。彼女の母が病気で入院しているという。

冬が来る前に彼女の母も亡くなった。翌年、正月に様子を見に行ったら、彼女の父が
ひとりで庭いじりをしていた。
「もう、おれひとりだよ。淋しいもんだね、一人で暮らすっていうのは」
「そうかもしれません」
「家が広すぎてね」



705 名前: 名無しさんの初恋 投稿日: 02/01/14 18:09 ID:J5ozzTua

その父親からの連絡もなくなった。学校を異動することになったという通知
を出しても返事が来ない。電話をしてもつながらない。まさかなあ、とおもいつつ
彼女の家に行ってみる。例によって隣の人に聞く。

「もう、これまでだな」と彼は言った。
「◎◎がいなくなって、やっぱり生きる気力っていうのが半減したよな」
「かあさんもそうだったからな」
「あんなに元気だったのに、あの子がいってからは気が抜けたようだった」

彼が亡くなったという連絡をもらったのはそれからしばらくたってからだった。彼女の
家族はもういない。家もない。彼女の墓は母親の実家のほうにあるというがぼくは行っ
たことがないので見たことはない。
ときおり思い出すのは彼女の手の軽さだったり、なにげない一言だったりする。表情
はもうぼやけてしまって明確ではなくなってきている。もう10年になるんだから、そんな
もんだ、と思えばそんなものかもしれないが。やれやれ、こういう風にすればすこしは
すっきりするかと思ったらちっともすっきりしない(w 







     

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